9月4日夜、総統府前のケダガラン大通りは封鎖された。魏徳聖監督が13年間、7億台湾元(約18億日本円)かけて準備、撮影した歴史大作、『セデック・バレ』の台湾におけるプレミア上映会のためである。ベネチア国際映画祭に続いて台湾でも初上映。映画のプレミア上映会で、総統府が北側広場を貸し出すのは初めてで、国産映画の快挙である。外国作品に独占される映画の市場に対する逆襲ともいえるだろう。同作品は前編が9日に一般公開、後編は30日に公開。上映館数68、映写用プリント358本はいずれも国産映画の新記録だ。 中華民国(台湾)の映画がこのところ元気だ。ネット小説の人気作家、九把刀の自伝的映画『那些年、我們一起追的女孩』は公開二週間で3億台湾元(約8億日本円)近い興行収入を上げ、『海角七号/君想う、国境の南』(2008年)による5億3000万台湾元(約14億日本円)の台湾映画最高記録にどこまで迫るかが話題となっている。また、実在の人物がモデルの『翻滾吧、阿信』は、アイドル男優とスポーツによる自己啓発の物語で5000万台湾元(約1億3000万日本円)近くに。今年の国産映画の興行収入は、合計15億台湾元(約40億日本円)が期待できるという。
総統府前広場でのプレミア上映会には荘厳な雰囲気も漂う。(中央社)
実際、国産映画は長い低迷期を経て、2008年から回復傾向にある。2008年の国産映画(製作と完成)は36本、興行収入は約6億1085万台湾元(約16億2000万日本円)で市場シェア12.09%だった。前年のシェアは7.38%。2009年の国産映画は48本、2010年は50本と作品数は増え続けている。 そしてこの夏は、「台湾ニューシネマ」と呼ばれた1980年代の映画ブームが再来したかのようだ。当時のブームの中心人物、侯孝賢監督と、ここ数年映画界で活発な動きを見せる李烈プロデューサーが今年、同時に第六回総統文化奨を受賞したことは、台湾映画の理想的な伝承を象徴しているようにも思える。しかし、伝承だけにとどまっているわけではない。1980年代のブームに比べて、今の国産映画の題材と表現方法は大きく異なり、大胆だ。『モンガに散る』のリアルな暴力描写。『那些年、我們一起追的女孩』の若い欲望のストレートな表現。『セデック・バレ』のショッキングな「首狩り」。いずれも過去の国産映画では見られなかったものである。 最近の興行成績とそれに伴う文化クリエイティブ産業の取り組みは、映画が投資に値する産業であることを証明した。財界も動き出し、TSMC、友達電子、統一企業、中国信託などがベンチャーキャピタルを設立したり、基金を設けたりして国産映画への投資を始めている。投資収益の他、企業イメージの向上も狙えるからだ。政策と財界がサポートする中、観客の情熱が今後も続き、国産映画の復活が一時的な現象に終わらないことを願いたい。映画は経済効果のみならず、文化的アイデンティティーをもたらし、この土地の人々を結びつけるのだから。